寄り添うということ~緩和ケア病棟でのお話会

今日は、福井赤十字病院勤務の日でした。

いつものように、14時から15時半に「おもいでなサロン」でヨーガセラピークラスを開催。
ただ、今日は、14時半から20分ほど緩和ケア病棟で「お話会」があり、それをサロンに組み込んで行いました。
最初の30分は、1階のメディカルサロンでヨーガを行い、その後、お話会に参加するため、全員で4階の緩和ケア病棟に移動しました。

お話をしてくださったのは、緩和ケア病棟に入院されている88歳の女性、Sさん。
おもいでなサロンにも、一般病棟に入院されていた時から参加してくださっている方です。

実は、当院の元看護師長(このころは婦長さんと呼ばれていたと思いますが)さんで、終戦の直前に中国で軍の負傷兵のための救護にあたっていた方です。その経験をお話してくださいました。
戦争体験を語ることが出来る方自体、少なくなっていますが、看護師として戦争を経験された方はほとんどいらっしゃらないでしょう。その悲惨な現状をどうしても今、直接お話したいとおっしゃってくださって実現した会でした。

以前から、このお話会は企画され準備されてきましたが、当日である今日までご案内はされていませんでした。それは、当日にならないと、体調がお話出来る状態かどうか予測出来ないから・・・。
お話して下さる方のご意向を尊重しつつ、その希望を叶えるための準備をしながらも、ご本人に余計な心理的負荷をかけることがないように・・・。
準備は静かに穏やかに進められ、今日の日を迎えました。

70数年前のことを、ついこの間のことのように感じ、その時に何もできなかったこと、日本に帰る日を心待ちにしながら命尽きていった若い兵士のことを思い出し、涙ながらに語ってくださったSさん。その人たちの痛みを思うと、今ここで生きていることが切ない・・・と。
午前中、緩和ケア病棟の回診をした時、Sさん自身、急に襲ってきた心窩部の痛みにじっと耐えていらっしゃいました。痛み止めは希望されなかったので、痛みの場所に私の手を当て、呼吸を感じていただいたり、身体の緊張をゆるめていただきながら様子をみていました。しばらくして「痛みが少し落ち着きました」と言っていただきお部屋を後にさせていただきました。その時、いつものように、きちんとベッドに座りなおして笑顔を見せ深々と頭を下げられるその方のお姿に、心の美しさと強さを見せていただいたばかりでした。

そのSさんの口から出た、「今の自分の痛みよりも、その時の心の痛みの方が辛い」という言葉の重み。

お話の後、おもいでなサロンに参加してくださっていた男性からも発言がありました。
普段、皆さんの前ではご自分について語らない方でしたが、ご自分の病気のこと、今まで生きがいとしてやってきたこと、今日のSさんのお話を聞いて気づいたご自分の父親への想い、そして、これからの人生を大切にしていきたいこと、お話して下さったSさんへの気遣い。
緩和ケア病棟に、切ないけれども柔らかで心優しい一体感が溢れていたように思います。

経験を共有することで、お一人お一人がそれぞれに「繋がり」を感じ、「今、ここ」に生きていることの有難さを感じた瞬間。

お話会が終わった後、その感想を言って下さった男性が涙を浮かべながらもスッキリとした笑顔で話してくださいました。
「今まで、人前で涙を見せたことなんかないんや。年をとって涙もろくなったんかの?」

感情をありのままに見せることが出来たこと。
それを素直に、話してくださったこと。
参加して下さった方にも、とても意味のある会だったと感じました。

お話して下さった方にとっても、もちろん大きな意味があったと思います。

そういう場を提供できる場所であること。
自分が「今」しか出来ない、やり残したくないことを出来るようにサポートする人たちがいること。

Sさんは、「戦地で負傷した人を助けたい・・・と希望して、私は中国に渡りました。でも何もできなかったことが、今も心残りで、その時に命を落としていった若者の顔を昨日のことのように思い出すと、胸が痛み、心が張り裂けそうです。」とおっしゃいました。
でも、その時にそこにSさんがいてくれたから、心が救われた人は少なくなかっただろうと感じます。私たちが、今日、お話を聞いた時に心動かされたように。
それが人間だと思うから・・・。

「寄り添うこと」

その、無力なようで、とても力強い医療の基礎を感じさせていただいた、今日のサロンの時間でした。
感謝です。