第1回 GRACE勉強会@福井赤十字病院

By 2017-06-12 Blog No Comments

6月10日と11日の両日、福井赤十字病院で第1回目のGRACE勉強会が開催されました。

GRACE勉強会6月11日@赤十字病院

講師として、GRACE研究会の中心メンバーで、京都大学大学院で瞑想を脳科学的に研究されている藤野正寛さんをお招きしました。

アメリカでジョアン・ハリファクス博士によって体系化されたGRACEは、困難な状況の中で慈しみの行動を起こすために重要な5つの手順をまとめたものです。看取りの現場で働く医療従事者の心理的サポートを目的に作られましたが、最近では広く人間関係全般にも応用可能な実践システムとして、その応用範囲が広がってきています。
今回は、そのGRACEのベースになっている4つの要素、感情、身体、認知、注意からコンパッション(慈悲、慈しみ、思いやりなどの意味)が現れてくるメカニズムを、脳神経科学的に説明していただきました。

GRACE自体は、宗教色を取り除いたものとして作られていますが、元々は仏教の考えがベースになっています。ですので、心の科学としての仏教と、その実践の一つである瞑想のお話も、藤野さんは科学的な根拠と共に説明してくださいました。私にとっては、仏教とルーツが同じであるヨーガ哲学とその実践を、違った角度から学べる機会でもあり、この2日間でいろいろな気づきを頂きました。
その中でも、緩和ケアに関して、レクチャーから感じたことを一つ文章にしようと思います。
私がなぜ、緩和ケア病棟の看護師さんたちにGRACEを知ってもらいたいと思ったのか。
ヨーガを通して、何を皆さんに感じていただきたかったのか、を思い出したからです。

自然の摂理である「無常、無我、苦」に日常的に向き合わざるを得ない場所が、緩和ケア病棟だと感じています。
自然の摂理を理解する、という仏教のゴールを目指すつもりがなくても(自分に準備が出来ていなくても)、その摂理に向き合わざるを得ない状況に立たされるのが、そこで働く医療従事者と言えます。
相手の苦しみを感じることで感情が動くのは、人として自然な反応です。ただ、視点が「自分」にあると、共感に圧倒され、自分まで傷ついてしまう…。視点を「相手」において、相手の立場に立ってその苦しみを感じることができれば、感じられた他者の苦しみを「取り除いてあげたい」というポジティブな行動エネルギーに変換していくことができます。
緩和ケア病棟をはじめ、医療現場で働くということは、人として成長する場に身を置くことでもあると思います。医療従事者としてだけでなく、人として大切な在り方を学べる貴重な「場」。

GRACEを通じて、本来ならヨーガ哲学や仏教哲学で長期間、真摯に実践し培っていくもののエッセンスに、だれでも気づくことが出来る、ということは素晴らしいことだと思います。ヨーガ実践者でなくても、仏教を信じていなくても、その恩恵を受けることが出来る道具として、とても優れていると感じています。

幸せに生きるための哲学であり科学であるヨーガと仏教。
無常、無我、苦の究極の形である「死」に真摯に向き合うことで、一日一日の重みと有り難さ、美しさに気づくことが出来るのではないかと思います。
どんな状況であっても、幸せに目を向けることが出来る資質を身につける機会に変換出来るように。それがGRACEの可能性なのではないか、と感じました。

この2日間、参加された全ての方が、明確で歯切れのいい藤野さんの説明に目を輝かせ、満足されていました。私も講義でも大満足でしたが、それ以外の時間にも、たくさんお話させていただきました。そこから沢山のアイデアも浮かんできました。

すでに、次回の講座を希望する声が多く、今年また来ていただこう!と職員が動き始めています。嬉しい流れです。

熱意と慈しみの心で、ご自分の経験と知識を共有してくださった藤野正寛さんに心より感謝致します。ありがとうござました。